バイクで起こる〇〇現象~ノッキング

ハーレーダビッドソンの空冷Vツインエンジンは、その独特な鼓動感や粘り強い走りが魅力です。しかし、構造上、ノッキングという異常燃焼が発生しやすいという特性も持っています。
今回は「バイクで起こる〇〇現象」シリーズのひとつとして、ハーレーライダーが愛車を長く、最高のコンディションで乗り続けるために知っておきたいノッキングの「症状」「原因」「対策」について詳しく解説します。
ノッキングの症状:ノッキングはエンジンの悲鳴
ノッキングとは、エンジン内部で発生した衝撃波が金属を叩く音として現れる現象です。「ノック=コンコン」といった音がすることからこの名がついていますが、正式名称は爆轟(ばくごう)で、正しくは異常燃焼による異音のことを指します。ノッキングの症状は、初期の軽いものからエンジン停止の危険を伴う重度のものまで、いくつかのサインがあります。
もっとも典型的で重要なサインは異音です。加速時や登坂時など、エンジンに負荷がかかっているときに「カリカリ」や「キンキン」といった高音の金属音が顕著に聞こえることが特徴です。低回転のまま高いギアでアクセルを開けた場合(いわゆるノロノロ運転で粘る状況)にも発生しやすくなります。また、エンジン温度が高いと異常燃焼が起こりやすくなり、冷間時よりも音が大きくなる傾向があります。
軽度の場合は「チリチリ」といった高めの音ですが、重度になると「カンカン」といった叩きつけるような強い金属音に変わります。異音とともにエンジンや車体から不快な振動を感じることもあります。また、燃焼が正常に行われないため、アクセルを開けても加速が鈍くなり、トルク感が失われるように感じるでしょう。
重度のノッキングはエンジンの回転に異常をきたし、最悪の場合は走行中にエンジンがストールするリスクもあります。こうした異常燃焼を放置すると、ピストンやシリンダーヘッドにダメージが蓄積し、ピストンの溶解・破損、ヘッドガスケットの吹き抜け、クランクシャフト周辺部品の損傷など、エンジンを分解修理せざるを得ない致命的なトラブルに発展する恐れがあります。
ノッキングの原因:なぜハーレーでノッキングが起きるのか?
ノッキングは、燃焼室内の「異常な高温」と「異常な高圧」が主な原因となります。これにより、正常な点火タイミングとは別に混合気が自発的に着火してしまう(プレイグニッション)、またはプラグ点火後に別の箇所で爆発が起きる(デトネーション)ことによって発生します。
ハーレーのエンジン特性や日本の環境下でノッキングを引き起こす要因は多岐にわたります。まず、ハーレーの象徴である空冷エンジンは、渋滞や夏場の低速走行でエンジン温度が上昇しやすく、燃焼室の温度が高まることで異常燃焼のリスクが高まります。
また、運転操作も原因となります。適切なギア選択をせずに無理に加速したり、エンジン回転数が低いまま走行し続けたりすると、エンジンに過度な負荷がかかり異常燃焼を誘発します。エアクリーナーの目詰まりなどで吸気量が不足し、空燃比が崩れると、不完全燃焼や燃焼室の過熱が起こりやすくなります。
燃料およびエンジン状態も重要な要因です。海外ではエンジンが指定するオクタン価(ノッキングの発生しにくさを示す数値)を満たさない、低オクタン価(レギュラー)のガソリンを使用するとノッキングのリスクが大幅に高まります。これは日本ではあまり発生しません。
さらに、長期間の使用によりピストンや燃焼室にカーボン(燃えカス)が堆積すると、そのカーボンが熱を持ちやすくなり、「火種」となって正規の点火前に混合気を着火させる原因となります。チューニングで圧縮比を上げたカスタム車両の場合、燃焼室内の圧力や温度がノーマルより上昇するため、日本のハイオクガソリンでも異常燃焼の危険性が高まります。
思いのほか多いのが、スパークプラグの電極摩耗や熱価の不適合、点火系パーツの劣化です。こうした点火系の不良もノッキングの原因となります。
対策:愛車をノッキングから守るメンテナンスと運転術
ノッキングの異音に早く気づき、原因を特定し、速やかに対策を取ることが愛車の寿命を延ばす鍵です。もっとも基本的な対策は、指定されたハイオクガソリン(プレミアムガソリン)を使用することです。現行のハーレーはハイオク仕様となっているため、必ず守りましょう。高オクタン価の燃料は自己着火しにくく、ノッキング抑制に不可欠です。
ノッキングを防ぐためのメンテナンス
カーボン除去を目的とした燃料添加剤を定期的に使用し、燃焼室内の汚れを除去することが効果的です。さらに、エンジン内部の冷却性能を維持するためにも、品質の良いエンジンオイルを定期的に交換することが大切です。
スパークプラグについても、走行距離やメーカー指定の交換時期を守り、摩耗やカーボン付着が見られる場合は早めに交換しましょう。エアクリーナーの詰まりは空燃比を乱す原因となるため、定期的な清掃や交換で吸気量を確保することが重要です。
カスタム車両や異常音が続く場合には、専門ショップに相談することをおすすめします。コンピューター制御車では、インジェクションチューニング(ECMセッティング)によって、燃料噴射量や点火タイミングを日本のガソリンやカスタム内容に合わせて最適化することが欠かせません。
ノッキングを防ぐための運転術
運転方法の改善も重要です。低回転で無理に加速せず、早めのシフトダウンを心掛け、エンジンに過度な負荷がかからない運転を心がけましょう。
また、真夏や渋滞時の走行では、適度に休憩を取り、エンジン温度の上昇を防ぐようにしてください。
ノッキングは日頃のメンテナンスと運転次第で防げます!
今回はノッキング現象について解説しました。正しいメンテナンスと運転術で愛車をノッキングから守り、重大な故障を未然に防ぐことができます。
ぜひこの記事を参考に、ノッキングとは無縁の快適なハーレーライフをお楽しみください!