マニアックなリンカート&ベンディックスキャブレターのお話

投稿日:2019-05-17

今や「キャブレターってなんすか?」みたいなバイカーが平然とハーレーを乗っているのですが……そりゃ新車が全てインジェクション仕様になってから、もう長いのですから、当たり前の話なのかも知れませんね。

時代は今や令和なのですが……それでもこんなご時世だから知っておいて頂きたい昔話ってものがあるのです。

そこで今回は、かな~りマニアックな古いキャブレターのお話をします。リンカート&ベンディックスについてです。

 

リンカートとベンディックスは昔の純正キャブ!

さて、まずはリンカートから行きまっす。リンカートは第二次世界大戦前からアーリーショベルの時代まで、ハーレーに純正採用されていたキャブレターです。第二次世界大戦前ということで、サイドバルブエンジン当社車のほか、ナックルヘッドに、そして第二次世界大戦後はパンヘッド、そしてショベルヘッドにも、このリンカート製品が使われていたのであります。

余談になりますが、同じ期間、インディアンのチーフなどにも純正採用されていました。当時は大きなシェアを持っており、また息が長いキャブレターでした。それでですね、何と驚いたことに!このリンカートキャブレターは今でも、当時の在庫を細々と直販していたり、(主要なキャブ部品が全部揃っている前提条件付きながら)キャブのリビルドを受け付けしていたりします。信じられないことですよね!アメリカのモーターサイクル文化の奥深さを感じさせます。

そしてベンディックスは、リンカートの後を受けたティロットソンに続いてハーレーに純正採用されたキャブレターです。コチラも構造的にはリンカートを継承したような簡素なモデルでした。

 

リンカートキャブレターの特徴

さて、続いてはリンカートそのものについて。何故これだけのシェアを獲得して息が長かったのかと申しますと、それは高性能だったから。これに尽きます。ただし、高性能とは言っても、それは時代を考慮すれば、ということですね。何しろその構造は極めてシンプル。固定ベンチュリ―式+強制開閉というキャブレターの原理原則的な仕組みを採用しています。その構造がコチラ!

 

一例として、画像をリビルドパーツやリプロパーツを今でも扱っているアメリカのInto The Wilderness Tradingさんより転載させて頂きましたが、部品がこれしかないのであります!

余談になりますが、良く「リンカートはフロートがコルク製だからオーバーフローしやすい」などと言われていますが、そのコルク製のフロートとは、部品番号27380-50の輪っかのこと。

 

コチラがそのコルク製のフロート! 残念ながらオリジナルではありません。V-Twinが現在販売しているリプロ品です。

それでですね、リンカートキャブレターの”高性能”を一言で表現しますと、ロースピードとハイスピードのニードルを備えており、それにより全域でセッティングできる、という点にありました。リンカートが採用された当時のモーターサイクルは(基本的にはですが)未だ、始動・アイドリング・低速走行・高速走行、これにしっかり対応できるだけで、充分に高性能だったのです。

というわけで、リンカートのキャブレターは、1930年代から1960年代後半、アーリーショベルの時代まで採用された逸品であったと言えます。

 

ベンディックスキャブレターの特徴

続いてはベンディックス。長くなってきたので駆け足で行きます!

冒頭に記載しましたが、ベンディックスは構造的にはリンカートを踏襲したものとなります。つまり……固定ベンチュリー+強制開閉でございます。ここで採用された時代を考慮するため、搭載エンジンを比較してみますと……VLやULのサイドバルブから、ショベルへ……という進化になります。ですから、もはや簡素なセッティングで走ることができるリンカートから、キャブレターにも、オーバーフローしないこと、始動の容易さ、アイドリングの安定、高速走行の性能などが求められてきたのであります。

 

コチラがベンディック・ゼニスの構造図。コチラはアメリカのClassic Motorcycle Buildさんのウェブサイトより転載させて頂きました。詳細なリビルド方法が記載されていますので、ご興味のある方はご参照ください。

で、ベンディックスで何処が変わったのかと言いますと……まず外観。リンカートと比較すると、ベンチュリ―(空気の通路。混合器ではありません!)が圧倒的に短くなっていることが分かります。ベンチュリ―が長いとキャブレターは冗長になります。それではレスポンスが悪かったり、セッティングが出しにくかったりといった不具合があったのです(ベンチュリ―が長いことで誤魔化しが効くのも事実です)。そこでベンディックスではベンチュリ―を短くしたのです。同時にベンチュリ―径を大きくしています。

それを可能にしたのは、ベンディックスで新採用された加速ポンプ。3番の部品がそれです。コイツのお陰で、まず始動性があがりました。そしてスロットル操作に敏感に反応して、低速から高速まで、エンジンが望む量の混合器を供給できるようになったのであります。

しかしその後……我が日本のケーヒンに取って代わられてしまったのですが……それでも、ベンディックスもまた、ハーレーの進化に合わせて、キッチリ進化を果たしたキャブレターだと言えると思います。

 

参考-Into The Wilderness TradingV-TwinClassic Motorcycle Build
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