【不朽の名作エンジン】〜ナックルヘッド編〜
ハーレーの名作エンジンを紹介する【不朽の名作エンジン】シリーズですが、今までにフラットヘッドやアイアンスポーツをご紹介しました。
それはV型2気筒エンジンという意味でハーレーエンジンの原型となりました。
またフラットヘッドのベビーツインエンジンの4カム構造は、後にスポーツスターへと受け継がれていきました。
一方で、ハーレーエンジンの一つのアイデンティティはOHVバルブ駆動です。これを最初に搭載したエンジンが、今回ご紹介する【ナックルヘッド】でした。
36ナックルが特別なのは、アメリカらしさ満載だから!
ナックルヘッドは1936年に登場し、OHV(オーバーヘッドバルブ駆動方式)を採用していました。
当時、アメリカでは最大のライバルであるインディアンが1920年代後半に4気筒エンジンを搭載したモデルを発売しており、イギリスメーカーもOHVを搭載したモデルを次々に発表していました。
そこで、ハーレーが1936年に投入した渾身の1台が、ナックルエンジンを搭載したモデル「E」です。現在では考えられませんが、当時は最先端の技術であるOHVを搭載し、アメリカ最速のモーターサイクルとして登場しました。排気量は988ccで、最高出力は40ps / 4,500rpm。シリンダーヘッドの形状が拳(こぶし=ナックル)のように見えることから「ナックルヘッド」と名付けられました。
スポーツタイプのEとEL(圧縮比はEが6.5でELが7.0と異なる)に搭載されましたが、Eモデルのトップスピードが150km/hで、Eモデルをベースにした記録挑戦用モデルでは218km/hという驚異的な速度を達成しました。80年以上も前のエンジンとしては、非常に高い性能を発揮するモデルでした。カムシャフトは1本で、これが4本のバルブを駆動する構造を採用しています。この設計は生産コストを抑える面でも有利でした。
この36ナックルはアメリカ人にとって特別なものとされています。それはナックルはシリンダー、シリンダーヘッド、ピストンがすべて鋳鉄製であり、後に登場したパンヘッドがドイツのBMWの影響を受けて、アルミ製シリンダーヘッドを採用していたからです。鉄製エンジン+アメリカ的技術=OHVで世界のライバルに立ち向かったその姿勢が、アメリカンの琴線に触れるからなのです。
ナックルの進化
画期的なエンジンとして登場したナックルヘッドでしたが、初期にはオイル漏れを起こしたり、ノイズが大きいなど、数々のトラブルを抱えていました。当時ものの本によると「完成度は低い」と評されていました。しかし、ハーレーの技術者たちはナックルを高品質なエンジンにするために改良を重ねました。
1941年には排気量を1200ccに拡大し、最高出力は48ps/5,500rpmまで向上しました。これにより最高速度は160km/hに達し、スポーツモデルのF、FLに搭載されました。現在では世界中のハーレーライダーの憧れとなったナックルヘッドですが、第二次世界大戦後の1948年にパンヘッドエンジンが登場したことで、静かにその地位を退きました。